Japan Arts
09/14/16 (Wed)
Open Time 18:30 / Play Start 19:00
Tokyo Opera City Concert Hall
(Tokyo)
Hagen Quartett
Hagen Quartet
Lukas Hagen, 1st Violin
Rainer Schmidt, 2nd Violin
Veronika Hagen, Viola
Clemens Hagen, Cello
J. S. Bach
Die Kunst der Fuge BWV1080 ~ Contrapunctus 1-4
Shostakovich
String Quartet No. 8 in C minor Op. 110
Beethoven
String Quartet No.13 in B flat major Op.130
Grosse Fuge Op. 133
▼フーガの4人―ハーゲン・クァルテット、信頼の対位法
ハーゲン・クァルテットは流動的である。言ってみれば、生命の歩みと同じように。
人と人の関係が、風景や場所によって、時とともに移ろう。それは当然のことで、だからこそ、そこに演奏という再現芸術の意味があり、聴取という毎回の体験の魅力もある。
しかし、弦楽四重奏というのは、ごく控えめに言っても、アンサンブルのもっとも凝縮された形式である。同族楽器で編成されるだけに、抽象度の高い構築が身上となる。作曲家にしてみれば、音楽思考の最上の実験の場でもあり、高度な建築設計に向く画布である。
いっぽうで、舞台の上には、4人の人間の織りなす多様なテクスチュアがある。作品が求めるものと同時にそれぞれの演奏者がもつ関係性が、声部の織りなしに必然的に関わってくる。リスクを避けようとするなら、ある程度関係を固定して、決まった役割を洗練させていくこともできる。
しかし、ハーゲン・クァルテットの30数年にわたる冒険は、そうした機能的な論理からはみ出して、自発的な流動性に身を任せるところが濃密にある。互いを知りぬいているからこそ、堅牢に固定するよりも、ときどきの自由と変容を融通する寛容さのほうが大きい。それは、ハーゲン・クァルテットが職能集団である以前に、家庭音楽の良心に従って歩み出した端緒とも関係が深いだろう。全体統制を超えたなにかを、それぞれの自律性で招き入れることが、彼ら人間の四重奏を、豊かな変容の現場として生き生きと保ってきた。
さて、来る秋の主題はフーガである。バッハ晩年の集成「フーガの技法」の、最初の4曲の4声フーガから演奏会は始まる。バッハは自身の音名象徴 B-A-C-Hを同曲集の未完のフーガに織り込もうとしたが、ショスタコーヴィチも先達と音程関係の近い自身の音名象徴 D-Es-C-Hを愛用して、体制下の創作に自伝的な色合いを籠めた。1960年のハ短調四重奏曲も、その音名のフガートで厳かに始まる。そして、ベートーヴェン畢生の大曲、6楽章の変ロ長調四重奏曲op. 130が、初稿の長大な終曲「大フーガ」op. 133で堂々と締めくくられる。
バッハ曲の主音はD、ショスタコーヴィチはC、ベートーヴェン曲はイニシャルでもあるB-つまり200年の時空を旅するプログラム全体としても、先の2人の音名象徴に親しい。頭文字にHをもつ名クァルテットが、音楽史上に輝く3者のフーガの論理工作を、どのような人間味と生命感を籠めて活発に息づかせていくのか楽しみだ。
青澤隆明(音楽評論)
S席:7,300円(6,600円)
主催者HP https://www.japanarts.co.jp/concert/concert_detail.php?id=437