Japan Arts
09/30/16 (Fri)
Open Time 18:30 / Play Start 19:00
Tokyo Opera City Concert Hall
(Tokyo)
Alice Sara Ott Piano Recital
Alice Sara Ott, Piano
Grieg
Excerpts from Lyric Suite
Ballade Op. 24
Liszt
Sonata in B Minor
▼新しい冒険をつねに続けるアーティスト
アリス・紗良=オットのピアノを初めて聴いたのは、ドイツ・グラモフォンと専属契約を結んだ直後に東京で行われたお披露目コンサートで(2008年)、リストの「超絶技巧練習曲」など数曲を演奏しただけで、大変個性的な資質をもったピアニストが登場したものだと驚いた。黒髪のロングヘアをロック・ミュージシャンのように振り乱しながら、「鬼火」や「ラ・カンパネラ」を弾く様子は、ピアノに憑りつかれているようでもあり、何かに全力で反抗しているようでもあった。
聴衆の前で火花を散らすことのできる、生まれながらの「スター」であることは間違いなかったが、ドラマティックなデビューを飾った後も、アリスは予想外の変化を次々と見せていく。ルクセンブルク出身のピアニスト、フランチェスコ・トリスターノとレコーディングした『スキャンダル』では、作曲もこなすトリスターノの技巧的なオリジナル曲にチャレンジし、ストラヴィンスキーの『春の祭典』やラヴェルの『ボレロ』(いずれもトリスターノ編曲)もデュオで披露。緊張度の高いユニットで、ライヴでの集中も尋常ではなかったが、なんとも言えないユーモラスな雰囲気もあった。アリスが相棒として選ぶのは、つねにクラシックの世界だけにとどまらない、マージナルな活動をしている冒険的アーティストだ。1歳年上のアイルランド人、オーラヴル・アルナルズはポスト・クラシカルの先駆的サウンド・クリエイターで、アリスが様々なプリペアード・ピアノでショパンを弾いた録音に、オーラヴルがストリングスのサウンドを加えて斬新な世界を作り上げた。二人がリリースした「ショパン・プロジェクト」は、ショパンの音楽の未知の可能性を掘り当て、クラシック・ファンを驚かせた。
ひとつのイメージにとらわれたくない、ただの美人ピアニストと思われたくない…アリスの「パンクな」活動を見ていると、既成のジャンルにとどまらず、新しい冒険をつねに続けたいアーティストなのだと思う。クラシックが豊かで無限の可能性をもつジャンルであることを、身をもって表現するために、破壊と創造を繰り返しているのだ。9月のソロ・リサイタルでは、グリーグとリストをプログラムに組んでおり、キーワードは「ロマン派」なのか…など色々と深読みしたくなる「人選」(?)である。目隠しをしてルービック・キューブを最短で完成させてしまうのがアリスの特技だが、直観型の天才である彼女には「オーソドックス」という言葉は似合わない。つねに驚きとともにオーディエンスの前にやってくる、スーパー・ピアニストの「旬」の音が早く聴きたい。
小田島 久恵(音楽ライター)
S席:6,400円(5,800円)/A席:5,400円(4,800円)/B席:4,300円(3,800円)/C席:3,200円(2,900円)
主催者HP https://www.japanarts.co.jp/concert/concert_detail.php?id=436