Japan Arts

2016年11月10日(Thu)  開場 18:15 / 開演 19:00
東京オペラシティ コンサートホール (Tokyo) map

舘野泉 傘寿記念コンサート

舘野泉(ピアノ)
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
高関健(指揮)


池辺晋一郎
ピアノ協奏曲第3番
「西風に寄せて~左手のために」(舘野泉に献呈)

ヒンデミット
管弦楽付きピアノ音楽 作品29 (左手のためのピアノ協奏曲)

シュタール
オーケストラと左手のためのファンタスティック・ダンス

ラヴェル
左手のためのピアノ協奏曲


80歳の左手が語ること

一晩に4つのピアノ協奏曲を弾くことは、それほど大変なことだとは思っていないが、左手の協奏曲を4つ選び、それを準備勉強していく作業には筆舌に尽くしがたい難しさがある。両手のための協奏曲ならいろいろな組み合わせで曲を選ぶことが可能で、古典からロマン派、近代現代と、それこそ様々な花束を作ることが出来るだろう。左手の協奏曲はラヴェルの素晴らしいものが恐らく歴史上最初の作品。つまり作品が近代現代に集中し、その中に激しい個性が犇めいているのだ。
ラヴェルの作品は第一次世界大戦で右腕を失くしたオーストリアのピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱により作曲されたが、左手だけで演奏するという制約を乗り越えて、音楽として実に素晴らしい。音楽史上最高の傑作のひとつといっても過言ではないだろう。この協奏曲と並行してラヴェルは両手のための協奏曲も作曲していること、そして、左手の協奏曲を生みだすことに、より心血を注いでいたことは何を意味しているのだろうか。
ヒンデミットの「管弦楽付きピアノ音楽」もラヴェルと同じ時期に、パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱により作曲された。しかしこれは1923年に完成しながら一度も演奏されることはなく、ようやく2004年にレオン・フライシャーのピアノ、サイモン・ラトル指揮のベルリン・フィルにより初演がなされた。若きヒンデミットの「怒る若者」といった、手も破壊しろといわんばかりの激しい曲想をもつこの作品は、すぐにドイツの出版社から私にも弾くように要請があり、日本の各オーケストラに当たってみたが、手を挙げる団体はなく、今に至ったわけである。今回、私が最も信頼する指揮者である高関健さんの指揮のもとに演奏出来ることは喜びこの上もない。
ファンタスティック・ダンスの作曲者ルネ・シュタールはウィーン・フィルのヴァイオリン奏者で、現代音楽の演奏会では同団の指揮も度々務めている。またウィーン・フィルよりの委嘱作も幾つかあり、同団の日本演奏旅行でも演奏されている。実はもう半世紀近くも前の1968年、まだ14歳のシュタールはシベリウス・アカデミーで私の弟子だった。ファンタスティック・ダンスは2015年の作品。精緻なリズムで書かれていて、その演奏は非常に難しい。神経を極限に張りつめ集中しなければならないのだ。だが、聴く人にとっては、ごく素直に聴きとおせる魅力ある作品だと思う。このギャップはなんだろう!
この十年間に日本の作曲家達も左手のために素晴らしい協奏曲を書いてくれた。例えば吉松隆や一柳慧ほか、全部で12曲ある。間宮芳生や矢代秋雄などもきっと素晴らしい左手のピアノ協奏曲を書いてくれただろうとも思う。今回は池辺晋一郎のピアノ協奏曲第三番「西風に寄せて」を聴いていただこう。
65歳で脳出血を患い半身不随になり、2年後に左手のピアニストになった。
70歳を迎えた時には自分がそんなに長生きするなんて思ってもいなかったから、すべてが輝いてみえた。
いまは80歳。正直なところ、80代の自分は想像も出来なくて戸惑っている。これからも弾きつづけていく、そのことに迷いはないが、何を弾いて、どんな音楽の道を進んでいくのか、未知の道に向かっている心境だ。若い時には、百歳になってもグラナドスの「恋する男たち」を弾いて女たちをどきどきさせてやりますなんて言っていたけれども・・
多くの方々に支えられてこれまでを生きてこられ、弾きつづけてこられたことにただ感謝です。

舘野 泉


S席:9,000円(8,000円)/A席:7,500円(6,800円)/B席:4,500円(4,000円)

主催者HP https://www.japanarts.co.jp/concert/concert_detail.php?id=478